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手塚治虫『火の鳥 乱世編』平安時代末期、「諸行無常」

私は社会科の教員として歴史を生徒に教えています。生徒たちに歴史を教える土台として,漫画で学んだことが大変役に立っています。

そこで、これまで私が読んできた漫画の中で、歴史学習につながったな、たくさんの方に読んで欲しいな、というものを紹介していきます。

今回紹介するのは、手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』です。『火の鳥』シリーズは改めて紹介するまでもない、日本漫画の金字塔を打ち立てた作品ですが、今回は「歴史学習」という視点で紹介します。


〇作品に登場する主な歴史上の人物・歴史上の出来事

以下に本作の舞台となる平安時代末期の時代背景、登場する歴史上の人物などを紹介します。

・平安時代末期の時代背景

1156年の保元の乱(ほうげんのらん)、1160年の平治の乱(へいじのらん)で活躍した平清盛(たいらのきよもり)は、朝廷の権力者である後白河法皇(ごしらかわほうおう)のもとで重用され、武士としてはじめて太政大臣(だいじょうだいじん)というとても高い役職につきました。

また、自分の娘を天皇の后にし、生まれた子を新しい天皇にしようとするなど、藤原氏の摂関政治の影響をうかがわせる方法で、天皇家とも親類関係を構築し、権力の基盤を盤石にしていきました。

しかし、1177年の鹿ヶ谷の陰謀(ししがだにのいんぼう)で平氏政権打倒の話し合いが行われたり、1179年には平清盛が軍勢を率いて京都を制圧し後白河法皇を幽閉して院政を停止させたりするなど、平清盛を中心とした平氏政権は混迷をきわめていきました。

そのような中、平清盛の孫である安徳天皇(あんとくてんのう)が即位したことにより皇位継承が絶望的となった後白河法皇の子である以仁王(もちひとおう)が、平氏政権の打倒を全国の武士に呼びかける院宣を出しました。

この以仁王の院宣に反応して挙兵したのが、当時伊豆を治めていた平氏一門である、北条氏のもとに捕らえられていた源頼朝(みなもとのよりとも)や、その義理の弟で奥州藤原氏の藤原秀衡(ふじわらのひでひら)のもとに身を寄せていた源義経(みなもとのよしつね)、信濃に拠点のあった源義仲(みなもとのよしなか。木曽義仲とも)などでした。

この三者はそれぞれの戦を実践し京都を目指しましたが、はじめに京都を制圧して平氏を西国に追いやったのが、源義仲でした。

しかし、この源義仲は京都をうまくおさめることが出来ず、後白河法皇との関係が悪化します。

すると源義仲は後白河法皇らを幽閉し、自分を征夷大将軍に任命させます。

幽閉された後白河法皇らを救うという大義名分を得た源頼朝は、弟の義経を京都に派遣。

義経は義仲の軍勢を討ち破ります。

その勢いのまま、源義経は西国の平氏残党との戦いに移り、1185年の壇ノ浦の戦いで平氏を滅ぼしました。

京都に戻った義経は、後白河法皇から高い官位を与えられ、京都の治安維持のまとめ役に任じられます。

しかし、これを知った兄の源頼朝と対立します。

源頼朝は朝廷に義経追討の院宣を出させ、義経を倒す大義名分を得ます。

義経はかつて自分が身を寄せた、奥州藤原氏を頼って平泉(ひらいずみ。現在の岩手県)に身を隠しました。

これでしばらく安泰下かと思ったのもつかの間、奥州藤原氏の指導者、藤原秀衡が亡くなります。

後を継いだ藤原泰衡(ふじわらのやすひら)は、頼朝の圧力に屈し、源義経を裏切ってしまうのでした。


〇今作に登場する主な歴史上の人物

・武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)

…今作の主人公である、弁太(べんた)という人物として登場します。源義経に仕えた人物です。この時代の弁慶の活躍を描いた歴史史料としては、『平家物語』(へいけものがたり)や『義経記』(ぎけいき)が有名ですが、どちらもフィクションの性質がうかがえるものであるため、武蔵坊弁慶の実際の事績について知ることは難しくなっています。

平清盛(たいらのきよもり)

・後白河法皇(ごしらかわほうおう)

・源頼朝(みなもとのよりとも)

・源義経(みなもとのよしつね)

・藤原秀衡(ふじわらのひでひら)

など

『火の鳥 鳳凰編』のストーリー内では、実際の歴史上の人物や出来事をもとにアレンジされています。どこがどう異なるか調べてみるのも、歴史の勉強になると思います。参考にしてみてください。


〇『火の鳥 乱世編』あらすじ

主人公の弁太はマタギ(山で狩りをする人)を生業とする青年です。

弁太には、おぶうという許嫁がいるのですが、ある日に平氏の部下の武士たちにさらわれてしまいます。

弁太はさらわれたおぶうを探し出すために京都に出て、五条大橋を通る武士たちに声をかけ、納得のいく答えが得られなければ腕力でねじ伏せ刀を奪う、という生活をしていました。そんな弁太は、牛若という少年に出会って不本意ながら家来になり、武芸の鍛錬に励みます。牛若は後に源義経と名を改め、平氏と争う源氏の武将として活躍します。

弁太は部下として義経の戦いに同行しますが、義経が兵士の命を軽視することに反発を覚えます。

一方、おぶうは平氏の有力者平宗盛の妻に拾われ、有力者に仕えるための英才教育を受けることとなります。

その甲斐あってか、時の権力者、平清盛に女官として仕えることになります。

平清盛は自分の余命が長くない中、自分が亡くなった後の平氏政権の行く末を不安に思っていました。

そんな中、日宋貿易を行う中で、生き血を飲むと永遠の命を得られるという「火焔鳥」(かえんちょう)(今作での火の鳥)の噂を知ります。

清盛は火焔鳥とされる鳥を手に入れるも、おぶうはそれが自分の地元にいた雉(きじ)に似ていたことから、火焔鳥の生き血の効能に疑問を覚えます。(実際、その火焔鳥は孔雀でした)

しかし、時の権力者、平清盛に自分が必要とされており、そんな清盛を失望させたくないおぶうは、清盛を励まし献身的に支え続けるのです。

そんな清盛とおぶうでしたが、清盛は結局亡くなってしまい、やがて京都は源平の合戦の戦乱に巻き込まれ、騒然とした世の中になっていきます。

最終的に、平氏存亡をかけた壇ノ浦の戦いの最中、弁太とおぶうはようやくおぶうと再会するのですが、おぶうは平氏と行く末を共にすると、心に決めた状態だったのでした…。


〇今作を貫くテーマ

今作では、平安時代末期の様々な人物、歴史上の出来事を絡ませながら、独自のストーリーを展開していきます。

この作品を読み終えた後、諸行無常」という言葉が頭に浮かびました。

手塚治虫が今作で源平の合戦自体を描く以上、この時代の少し後に琵琶法師と呼ばれる人たちが広めたとされる『平家物語』は、先行研究として避けて通れなかったと考えられます。(実際に『平家物語』のフレーズは作中で何回か登場します)

この『平家物語』の有名なフレーズとして、「祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり」というものがあります。

ここにある、「諸行無常」(しょぎょうむじょう)。

これが本作『火の鳥 乱世編』を貫く、大きなテーマなのかなと私は感じました。

「諸行無常」は仏教の言葉で、「すべてのものは変化し、消えゆく」という意味を持つ言葉です。

本作は、源平の合戦が起きた、平安時代の末期という乱世の時代を描いています。

この時代には、後白河法皇、平清盛、源義仲、源義経、源頼朝と権力者が何回も入れ替わりますが、どの勢力も永遠不滅の影響力を持つことはできませんでした。

また、本作における人物についてもそうです。

例えば、弁太とおぶうの婚約関係も、お互いの、思いの変化により、結局成就することはありませんでした。

そして、はじめは好青年として描かれた源義経も、源平の合戦においては目的のためには手段を選ばず、部下や一般庶民の命を何とも思わない冷徹な人物として描かれます。その因果応報なのか、兄である源頼朝や、奥州藤原氏に裏切られ亡くなって行くのです。

「火の鳥」というシリーズは、永遠の命をめぐって様々な人間の思いを描くシリーズです。

永遠の命は言い換えれば「永遠に何も変わらない」ということです。

これは「諸行無常」とは真逆です。

実際には、今後よほど医療が発達しない限りは、「永遠の命」などはあり得ないことでしょう。

あり得ないからこそ、命には限りがあり「諸行無常」だからこそ、今その時々を一生懸命に生きる必要がある。そのようなあり様が、美しいのだと。

この「火の鳥」というシリーズを読むたび、私はそう考えさせられるのです。


〇最後に

今回紹介した『火の鳥 乱世編』は、中学生の時の私が、特に大きな影響を受けた漫画です。

手塚氏が「火の鳥」を通じて向き合ってきた、「人間とは何か」というメッセージ。

実際の歴史上の出来事についても学びながら、是非向き合っていただきたいと思います。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!