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手塚治虫『火の鳥 黎明編』(1967年)

歴史を学ぶ素材としての漫画

私は社会科の教員として歴史を生徒に教えています。生徒たちに歴史を教える土台として,漫画で学んだことが大変役に立っています。

そこで、これまで私が読んできた漫画の中で、歴史学習につながったな、たくさんの方に読んで欲しいな、というものを紹介していきます。

今回紹介するのは、手塚治虫『火の鳥 黎明編』です。『火の鳥』シリーズは改めて紹介するまでもない、日本漫画の金字塔を打ち立てた作品ですが、今回は「歴史学習」という視点で紹介します。

この作品は、「弥生時代」の日本が舞台です。当時は「日本」という呼び方すら存在しない時代です。

〇『火の鳥 黎明編』あらすじ

主人公はナギ(作中ではイザ・ナギと呼ばれる場面も)という少年。熊襲(クマソ)という地域にある、火山の近くのムラに住んでいます。

この火山には「火の鳥」が住んでおり、「火の鳥の生き血を飲んだ者は、永年の生命をえることができる」という言い伝えがムラにはありました。

ナギにはウラジという兄がいたのですが、火山に乗り込んだ際に、火の鳥と交戦し大やけどを負って亡くなったのです。

ナギは兄にかわって火の鳥を仕留めることを心に誓います。

そんな中、このムラにグズリという青年が流れ着きます。

当時ナギの姉であるヒナクは病にかかっていたのですが、グズリの活躍により病から回復し、ヒナクと結婚します。

しかし、このグズリという青年は「ヒミコ」という女王が治める「ヤマタイ国」出身で、ナギとヒナクが住むムラにやってきたスパイだったのです…。

「ヒミコ」はこのムラの近くに住む「火の鳥」と「永遠の生命」の伝承を聞き、老いていく自分の身体を怖れ、火の鳥とその近くにあるムラを襲撃させたのです。

ヒナクはスパイであったグズリを軽蔑します。

しかし、ヤマタイ国がムラを襲撃した後、グズリとともにムラ近くの火山の割れ目に落下してしまいます。

脱出は叶わず、グズリとの間にたくさんの子どもを産み育てます。自分がたくさん子どもを産み、ムラを再興するという志を持つようになったのです。

グズリは、罪滅ぼしの感情から、ヒナクの思いに答えるために、自分たちが落下した火山の割れ目に住んでいる、火の鳥を狙います。

一方、ナギは奴隷として「ヤマタイ国」に連れていかれます。

ナギは自分のムラを襲撃した張本人、猿田彦のもとで生活することになります。

ナギは猿田彦に恨みを持つ一方、猿田彦はナギを自分の実の息子のように感じるようになっていきます。

ナギも猿田彦に恩義を感じるようになっていき、「ヤマタイコク」が「高天原族」(たかまがはらぞく)という騎馬民族の長である「ニニギ」から襲撃された際には奮戦するのです。

◎歴史を学ぶ素材としての『火の鳥 黎明編』

〇「邪馬台国」の「卑弥呼」について

この作品には、「邪馬台国」とその女王「卑弥呼」が活躍した弥生時代の日本の様子が描かれています。

弥生時代の日本に住んでいた人たちは、文字を持ちません。

それではなぜ、弥生時代の日本の様子が現在わかるのでしょうか?

これは、当時の中国にあった「魏」という国の歴史書である『魏志』の中にある、「倭人伝」という項目に、当時の日本のことが記されていたからです。

『魏志』倭人伝からは、

・当時の日本が「倭」(わ)と呼ばれていたこと

・「邪馬台国」というクニがあったこと。

・「卑弥呼」という女王がいたこと。

・鬼道(「きどう」と読む)(まじないや儀式のこと)を行って人々を治めたこと

など、弥生時代の日本について、様々な記述が見られます。

『火の鳥 黎明編』では、この『魏志』倭人伝の記述をもとに、「邪馬台国」の「卑弥呼」を描きます。

〇日本神話とのつながり

・主人公「ナギ」について

この作品の主人公ナギですが、前述したように、フルネームは「イザ・ナギ」です。

これは『古事記』や『日本書紀』に記述される日本の神話に登場する「イザナギ」をモデルにしていると考えられます。

神話におけるイザナギは男性の神で、女性の神「イザナミ」とともに「国産み」を行い、現在の日本列島を生んだ神とされています。

・作中の「ヒミコ」の弟、「スサノオ」について

この作品の「ヒミコ」には「スサノオ」という弟が登場します。

『魏志』倭人伝では、「弟が政治を補佐していた」という旨の記述があります。

作中の「スサノオ」も、「ヒミコ」の補佐役として活躍しますが、後に「ヒミコ」に疎まれ、罪人として牢屋に閉じ込められてしまいます。

・「スサノオ」という名前について

さて、この「スサノオ」ですが、おそらく『古事記』や『日本書紀』に記述される日本の神話に登場する「スサノオノミコト」をモデルにしていると考えられます。

神話における「スサノオノミコト」には「アマテラスオオミカミ」(太陽の神)という姉がいます。

そう考えると、『火の鳥 黎明編』では「ヒミコ」=「アマテラスオオミカミ」と見立てて描いているという見方もできるのかもしれません。

・「猿田彦」について

作中ではナギやヒナクの住む熊襲のムラを滅ぼした猿田彦。

これもやはり神話が関係します。

『古事記』や『日本書紀』に登場する「サルタヒコ」がモデルになっていると考えられます。

神話では、「ニニギノミコト」という神が「天孫降臨」した際に、道案内をした神が「サルタヒコ」であるとされます。

※「天孫降臨」とは、神の国で空の上にある「高天原」(タカマノハラ。タカマガハラとも)から「葦原の中つ国」(アシハラノナカツクニ)の「高千穂の峰」(タカチホノミネ)に、「ニニギノミコト」が降り立ったこと。神話は難しい言葉が多いですね…。

また、「サルタヒコ」は大きな鼻と赤い顔の見た目だったとされ、後の「天狗」にもつながる存在だとされています。

神話において「道案内」をしたとされる「サルタヒコ」。

「火の鳥」シリーズでは「猿田彦」の子孫たちが毎回登場します。そういう意味では、毎回読者を「道案内」してくれているといえるのかもしれません。

・「高天原族」(たかまがはらぞく)という騎馬民族の長、「ニニギ」について

前述の「猿田彦」の説明でも登場した、「ニニギノミコト」がモデルだと思われます。

神話では「ニニギノミコト」の道案内をした「サルタヒコ」。

作中の「猿田彦」は「ヤマタイコク」の武人で、「ニニギ」は「ヤマタイコク」を滅ぼそうとする部族の長なので、神話とは全く異なる関係性ですね。

〇まとめ

以上のように、『火の鳥 黎明編』には、実際の弥生時代や、「邪馬台国」の「卑弥呼」のイメージをつかむための大きなヒントが見られます。

また、『古事記』や『日本書紀』にある「日本の神話」のエッセンスを感じ取ることもできます。

歴史を学ぶ上で大切なことは、イメージをつかむことだと私は思います。

教科書の文章を読んだり、掲載されている写真や地図を見るだけではなかなかその時代のイメージは湧きづらいかもしれません。

しかし、歴史学習に漫画を取り入れることで、その時代のイメージ、活躍した人物のイメージをつかみやすいと思います。

漫画では、いろいろと脚色をされている部分ももちろんあります。

今回紹介した、神話と漫画での描写のちがいなどもそうです。

しかし、そのような脚色は当たり前のようにあるものと割り切った上で、「この漫画ではこう描かれていたけど、歴史学の研究ではどのような定説があるのか」など、学び手が自分で興味を持って調べていくということも大切だと思います。

近年、教育現場で評価の観点の一つになった、「主体的に学習に取り組む態度」というものがありますが、この「主体的に学習に取り組む態度」の入り口として、漫画が果たす役割は、歴史学習においてとても大きいものがあると思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今後も教育、学びに関する様々な情報を発信していきます。

よろしくおねがいいたします。