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手塚治虫『火の鳥 太陽編』 「宗教」と「戦争」について

教育×歴史

私は社会科の教員として歴史を生徒に教えています。生徒たちに歴史を教える土台として,漫画で学んだことが大変役に立っています。

そこで、これまで私が読んできた漫画の中で、歴史学習につながったな、たくさんの方に読んで欲しいな、というものを紹介していきます。

今回紹介するのは、手塚治虫『火の鳥 太陽編』です。『火の鳥』シリーズは改めて紹介するまでもない、日本漫画の金字塔を打ち立てた作品ですが、今回は「歴史学習」という視点で紹介します。

〇登場する主な歴史上の人物

・中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)(後の天智天皇)(てんじてんのう)

・中臣鎌足(なかとみのかまたり)(後の藤原氏の元祖、藤原鎌足)(ふじわらのかまたり)

・大海人皇子(おおあまのみこ)(後の天武天皇)(てんむてんのう)

・大友皇子(おおとものみこ)

〇関係する主な歴史上の出来事

・白村江の戦い(663年)(はくそんこうのたたかい、もしくは、はくすきのえのたたかい)

朝鮮半島にあった百済(くだら)再興を目論んだ日本・百済連合軍と唐・新羅の連合軍との戦い。日本・百済連合軍が敗退。報復を恐れた中大兄皇子は九州防衛の拠点としての大宰府や水城という防塁、瀬戸内海周辺に山城を築いた。

・壬申の乱(672年)(じんしんのらん)

天智天皇亡き後、天皇に即位しようとする大友皇子に対して、大海人皇子が起こした反乱。大海人皇子が勝利し、後に天武天皇に即位した。

〇手塚治虫『火の鳥 太陽編』

この作品は、7世紀の日本と21世紀の日本を行き来する構成となっています。

私はこの作品を中学3年生の時に読んだのですが、この過去と未来を行ったり来たりする構成はとても刺激的でした。

〇7世紀、飛鳥時代の主人公「ハリマ」

7世紀の方の主人公は「ハリマ」という青年です。百済の王族の末裔ですが、白村江の戦いで敗れた際、唐の兵士から顔の皮をはがれオオカミの顔をかぶせられるという悲劇を経験します。その後、舟を漕いで荒波を超え、倭の国(わのくに)(当時の日本)に漂着します。

彼が上陸した倭の国では、天智天皇の治世が執り行われ「仏教」を用いた政治が行われていました。しかし、倭の国には「八百万の神」(やおよろずのかみ)という地域ごとの土着の神がいました。仏教の布教により、八百万の神の住処が奪われていき、「八百万の神」と仏教の「仏」が対立していきます。そのような中、主人公ハリマは「オオカミの顔」をかぶせられたことにより、人間離れした力を得て、八百万の神や仏など、人知を超えた存在ともコミュニケーションを図ることができるようになっていました。

ハリマは八百万の神の「狗族」(くぞく)という一族のマリモという女性と結ばれ、八百万の神たちと交流を深めていきます。よって、仏教を無理やり広めて八百万の神を追い出そうとする「仏」たちと対立していくこととなりました。

〇宗教をめぐる対立が描かれる、21世紀の主人公「スグル」

一方で、21世紀の方の主人公は「スグル」という少年です。彼が生きている21世紀の日本では、「光」(ひかり)と「シャドー」という二つのグループに分かれ、対立が続いていました。スグルはシャドーに養成されたエージェント、スパイ、殺し屋です。

「光」というグループでは「火の鳥」を崇拝する宗教が布教されており、地上で生活しています。一方で「シャドー」というグループは地下に追いやられ、ネズミや虫を食べるような生活を強いられています。そのような劣悪さの中、「シャドー」は「光」から地上せの生活を取り戻すために、スグルなどのエージェントを育成し、テロを繰り返していたのでした。

上記の7世紀飛鳥時代の「ハリマ」の生まれ変わりが、21世紀の「スグル」です。彼らが睡眠を取ったり気を失ったりすると時代が移り、それぞれの時代のストーリーが進行していくのです。

〇人類の歴史の負の側面 「宗教」をめぐる「戦争」

この作品において、7世紀飛鳥時代の方では、歴史上の実際の出来事を関連させながら「八百万の神」と「仏」の争いが描かれます。

土着の「八百万の神」が反抗した際、力づくで従わせようという「仏」の様子は、ヨーロッパのキリスト教徒たちが宗教改革以降の大航海時代において、「キリスト教というすばらしい教えを広めるという使命」(「マニフェストデスティニー」といいます)を実践することが、植民地支配の大義名分とされたことを連想させます。

また、21世紀の「光」という教団が崇拝する「火の鳥」は実際には作り物になっていたことは、宗教のもともとの教義と、それを利用して自分の生活をより良くしようとする強欲な者たちとのギャップとを描き、とても示唆的な描写でした。

今作における「火の鳥」はこのようなことを述べます。

「人間というのは何百年何千年たってもどこかでいつも宗教のむごいあらそいをおこすんです。」

「宗教とか人の信仰ってみんな人間がつくったもの。そしてどれも正しいもの。ですから正しいものどうしのあらそいはとめようがないでしょ」

「わるいのは宗教が権力とむすばれた時だけです。権力に使われた宗教は残忍なものですわ」

時空を超え、人類の歴史を見守る存在として描かれる「火の鳥」。火の鳥の言葉からは、人類の歴史における「宗教」や「戦争」の実態から、目を背けてはならないという教訓を得ることができます。

〇まとめ

今の現実社会でも、ロシアとウクライナの争いがあったり、昨年には影響力のある政治家が宗教団体の活動を支援することにつながる疑惑が取り沙汰されました。

特定の宗教を持たない日本、憲法において戦争放棄を謳っている日本。この日本という国で生活していても、「戦争」や「宗教」にまつわる問題というものは、どの時代に生きていても付きまとうものなのです。

今回紹介した『火の鳥 太陽編』は、結果的に手塚治虫氏による「火の鳥」シリーズ最後の作品となりました。

手塚氏が「火の鳥」を通じて向き合ってきた、「人間とは何か」というメッセージ。

実際の歴史上の出来事についても学びながら、是非向き合っていただきたいと思います。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!